湯気の細い線が、静かに上へ伸びていく。
その向こうで、ページの白がやわらかく光る。
ひと息つきたい日の、ささやかな相棒になる一冊が、今日のテーマです。
■ ピクセルの世界は、紅茶の香りによく似ている
40キロバイトという、今では考えられないほど小さな器の中で、ひとつひとつの点が、確かに息をしている。
赤と茶のドットが並ぶだけで、人は“そこに誰がいるか”を感じとれてしまう。
不思議なほど簡素で、そして静謐。
紅茶の香りもまた、大きく語らず、淡く空気に溶けていくものだ。
控えめでありながら、なぜか心の奥に残る。
マリオの世界をデザインの視点で眺めるこの特集は、そんな紅茶の佇まいとよく馴染む。

■ ページをめくるたび “時間”がゆっくり戻る
スクリーンの向こうで走り続けていたキャラクターを、今度は紙の上で見つめ直す。
あの頃は気づかなかった「線」や「影」の工夫が、
思いがけずページの端に静かに眠っている。
急がなくていい。
ひとつ読み終えるたびに、カップを少し傾ければよい。
ミルクを足すと、記憶の輪郭がやわらかく溶け、
ストレートなら、細部の工夫がより鮮明に浮かぶ。
そんな読み方ができるのも、この本の面白さだと思う。

■ 紅茶と本の、静かな往復
デザイン解説の合間に置かれた写真や図版は、文章よりも早く心に届く。
たとえば、ドットの“赤”。
まるで、セイロンティーに差す夕方の光のような、柔らかな強さ。
あるいは、背景の空の色は、ダージリンの香りが持つ透明感に似ているかもしれない。
ページとカップのあいだを行き来していると、
時間がほんの少し丁寧に流れていく。

■ 結びに
ゲームの話なのに、どこか工芸品のような落ち着きがある。
そんな一冊でした。
紅茶と一緒に開くと、
ドットがゆっくりと温度を帯び、
遠い日の景色がやわらかく戻ってくる。
Casa BRUTUS「SUPER MARIO BROS. とデザイン」、
紅茶のおともに、とても良い時間を作ってくれる本です。
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